m2 死者にことばをあてがえ

わたしの死者ひとりびとりの肺に/ ことなる それだけの歌をあてがえ

死者の唇ひとつひとつに/ 他とことなる それだけしかないことばを吸わせよ

類化しない 統べない かれやかのじょだけのことばを/ 百年かけけて/ 海とその影から掬え

砂いっぱいの死者にどうかことばをあてがえ/ 水いっぱいの死者はそれまでどうか眠りにおちるな

石いっぱいの死者はそれまでどうか語れ/ 夜ふけの浜辺にあおむいて/ わたしの死者よ/ どうかひとりでうたえ

浜菊はまだ咲くな/ 畔唐菜(アゼトウナ)はまだ悼むな

わたしの死者ひとりびとりの肺に/ ことなる/ それだけのふさわしいことばが

あてがわれるまで      (辺見庸、詩集『眼の海』より、毎日新聞社刊)(12/03/10)