v 花の四月、嵐山で呑む

 桜花時に京都にいるのは何十年ぶりだろう。よしなしごとで帰京し、つかの間の花見と洒落込んだ次第。桂離宮の北詰に住む姉を誘って嵐山に出向いた。人通りの少ない裏道で一軒の飲み屋に入る。昼の日中です。京の酒(値段が一番安かった)を何本呑んだろう。姉はビールだと。冷や奴、「これはどこの豆腐ですか?」「豆茂どす」とは驚いた。何十年も前(京都にいた高校時代まで)、毎日リヤカーで売りに来たのが豆茂さん。いまなお、健在とはうれしい限り。ほんとに半世紀ぶりに口にしたら、五十年がすうーっと消えた。湯葉、麩の田楽、それから、それから。姉は鰻重だと。昼時、まったく店は閑散としていた。

 仲居さんに「どこに住んだはるの」と聞けば、「観空寺です」「そんなら、井上与一郎、知ってますか」「昨日も投票依頼の電話かけてました、よう知ってるどこやありません」やて。「実は、彼は同級生で、一昨日は選挙応援で喋ってきたんや。今日もこれから嵯峨駅前のセンターで話します」とまあ、すっかり仲良くなって銚子が増える。しばらくして、となりに夫婦が来た。酒を頼もうとした夫に「いけません」と妻。もう六十を越えたところか。「どっから来やはりました」「枚方です」「よう行きました、昔は」 聞くともなく、「わしは江田島の出や、家内も広島」「そうですか。お酒は一番安いのがうまい、ここでは」「さっき頼んだ酒はどうしようもないね」

 ひょんなことで「息子は早稲田を出ました」という。「えっ、何学部です?」「知らんわ、いまは千葉に住んでる」「そうですか」・・・。とか何とか無駄話をしている内に、銚子ばかりが増えていく(7時半から、市議の友のために応援演説せんならんのに)。やっと一時過ぎや。腰を据えて呑んだれ。そこへ、きれいなレンタルの着物を着たお嬢さんが三人、いそいそと入店。着物姿の嵐山。声をかけようとしたら、店の年寄り(亭主)が出てきて、さっさと中に招じ入れてしまった。ひょっとして、酒飲みにかわいい娘さんたちが絡まれるのを用心したにちがいない。さて、どうしよう。姉は鰻重を食べ、ビールを飲んで、たばこをふかしてる。さらにお酒を追加しよう。広島夫婦とやったりとったり、で時間が過ぎる。(11/04/08)