w 酒飲みの戯言

 ぼくはそんなに呑める口じゃありませんが、うまい酒はいいですね。季節も季節、折も折ですよ。酒が腸(はらわた)にしみるのを実感するのはこの季節でしょう。熱燗のうまさはわかりませんから、ぼくは年中とおして、常温というか燗をしないの(冷やですか)を流儀とします。酒のうまさ・まずさを温熱でごまかそうという、その魂胆が気に入りません。これまた年中、小生は豆腐と油揚げに納豆を肴に、まことに無粋ですが、ゆっくりと手酌、独酌です。そこに刺身の三切れほどがあればいうことなしです。じつに安上がりです。酒はもっぱら加賀の「黒帯」(悠々)。これは高くないし、まずくない。ぼくには味といい懐加減といい手頃も手頃、番茶も出花と言いたいほどです。これを備前の古猪口でやるようになったのはいつ頃からか。

 寄り合い酒もだめだし、立ち飲みもいけませんね。胡座(あぐら)をかき、ゆっくりと頭を休めながらの晩酌(にかぎりません)、この様を至福とはいいませんが、まあいのちの洗濯でしょう。これが酌にさわるという言葉の本意です。横にきれいなお姉さんがいるのも悪くないけど、ぼくには無塩、いや無縁です。独立の気概で独酌ですよ。だれかに四の五の言われながら呑む酒なんか、あれは酒じゃないね。「避け」というくらいですから。適量は小半(こなから)を二つばかり。すこしゆっくりできるときはこれを三つぐらいかな。さらに時間があれば四つばかり。呑むほどに酔うほどに、目が据わり、口が乱暴になるなどという芸当はまずできません。素面(しらふ)か酔顔か、ちょっと見には判断がつかないほどに変化がないのだから、下戸の中は仕方がありませんね。酔うために呑みますが、くだを巻くためには呑まない、いや呑めない主義です。(10/11/14)