z 教育とは、予想することだ

 半世紀近くも前に出版された本を再読しています。いや、何読だったかしら。著者はむのたけじ。むのさんの略歴はいずれの日にかするとして、『ボロを旗として』(番町書房刊、1966年09月)からの引用です。

 むのさんは語学の専門学校(今の外国語大学)を卒業して、新聞社に就職します。以下の話は広島に原爆が投下される一週間前の出来事でした。朝日新聞の記者になっていました。東京府立の商業高校から「戦意高揚の講演を」と依頼され、たまたまむのさんが指名された。

 「わたしは、東南アジア戦線への従軍体験をもとに、アジア諸民族の独立を求めてやまぬ課題は情勢がどうなろうと生き続けると述べ、だからわれわれ日本人はたたかいぬかねばならないと説いた。日本が勝つとは考えなかったが、負けることを望んでもいなかった私がそのとき若者たちへ語ったことは、明白に『戦意高揚』の言葉であった。/ところが玄関まで私を見送ってきた校長は、質問するようでもあれば独語するようでもある口調で、『いよいよ民主主義の時代ですなあ。民主主義はこの国でどのように展開されるでしょうねえ』と言った。私はギョッとした。私は何も言わずに校長の顔を見た」「その人から受けたショックは二十年たったいまもなまなましいのに、どうして名前も顔も忘れてしまったのだろう・・・。」

 戦時中にむのさんが「民主主義」という単語を日本人から聞いたのはたったそれっきり、その人からだけだったという。(10/03/19)